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ドクターコラム

漢方で考えるにきび治療2025.6.3

にきび治療における漢方の位置づけ

当院では、治りにくいにきびに対する治療手段として、日本の『尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023』にも記載されている漢方薬を積極的に用いています。
このガイドラインでは、漢方薬は微小面皰(※目に見えないごく初期の毛穴の詰まり)から、炎症を伴う重症・最重症のにきび(※赤く腫れたにきび[炎症]+白にきび・黒にきび[面皰])に至るまで、すべてのステージで「C1:選択肢の一つとして推奨する」とされています。
塗り薬で十分な改善が得られない場合や、塗り薬が肌に合わない場合、また抗菌薬の長期内服を避けたい場合など、西洋医学的治療が難しいケースにおいて、漢方薬は有力な選択肢となります。

漢方における「標治」と「本治」

漢方では、皮膚に現れる症状を直接抑える治療を「標治」症状の根本的な原因や体質に働きかけて、再発しにくい身体をつくる治療を「本治」と区別します。

にきびなどの皮膚の炎症は、標治では「熱」があると捉え、それを鎮める「清熱剤」を用います。一方、本治では、血行不良や月経に伴う悪化など全身の状態を見極め、「瘀血(おけつ)」の存在が示唆される場合には、「駆瘀血剤(くおけつざい)」によって体内の巡りを整え、体質の改善を図ります。
ここでいう「瘀血(おけつ)」とは、漢方でいう「血(けつ)」の巡りが滞った状態を指し、くすみや冷え、月経不順、慢性的な痛み、色素沈着が残りやすい傾向などとして現れることがあります。

清熱剤

にきびを直接抑える標治の治療としては、「十味敗毒湯」「荊芥連翹湯」「清上防風湯」などの清熱剤がよく用いられます。
『尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023』では、荊芥連翹湯は炎症性皮疹(赤く腫れて膿んだようなにきび)と面皰(白にきびや黒にきび)の両方に対して推奨度C1、十味敗毒湯と清上防風湯は炎症性皮疹に対して推奨度C1とされています。

清熱剤は、にきびの炎症の深さや体質によって使い分けます。たとえば、浅い炎症には十味敗毒湯しこりを伴うような深い炎症には荊芥連翹湯が用いられます。また、皮脂の分泌が多い思春期男子には清上防風湯が処方されることもあります。

これらの使い分けはあくまで一般的な目安であり、たとえば扁桃腫大や咽頭痛を繰り返す方、アレルギー性鼻炎を伴う方、アトピー性皮膚炎のように色素沈着を残しやすい慢性的な炎症を抱える方などには、荊芥連翹湯が選択されることがあります。
このように、荊芥連翹湯は清熱剤でありながら、体質的な傾向に働きかける目的で用いられることもあり、比較的長期的な視点での使用が想定されます。さらに、荊芥連翹湯は構成生薬数が17と多く、一般に生薬数が多い処方は効果が現れるまでにやや時間を要する傾向があるため、「体質改善」的効果を期待しながら月単位・季節単位で経過を見ていくケースもあります。

一方、十味敗毒湯や清上防風湯は、早ければ服用開始から数日以内に改善が見られることが多く、症状が落ち着いてくれば服薬量を減らすことも可能です。

駆瘀血剤

にきびでは、炎症によって毛穴周囲の組織が損傷し、血流が滞りやすくなります。その結果、老廃物がたまり、炎症が長引いたり、色素沈着が残ったりする原因となります。
駆瘀血剤は、こうした「巡りの悪さ」を整えることで、にきびの慢性化を防ぎやすい体質づくりに役立ちます
特に、顔の下部にできやすく、深く膿を持ち、色素沈着を残しやすい、月経前に悪化するような思春期後ざ瘡に対しては、駆瘀血剤が有効であることが多く見られます。

以前のコラム『にきび治療総論』でもご紹介したように、こうしたタイプのにきびではホルモンとの関連が疑われることがあり、ピルやスピロノラクトンといった治療が選択肢となりますが、まず取り入れやすい方法として、漢方による清熱剤に加え、駆瘀血剤の併用はよい選択肢となります。

なお、駆瘀血剤のように体質に深く関わる漢方薬では、「証(しょう)」と呼ばれる漢方独自の診断が特に重要になります。「証」とは、にきびの症状だけでなく、体質や月経との関係、冷えやむくみの有無、生活背景や全身状態を総合的に評価して導き出される、治療方針の基準となるものです。
当院では、こうした「証」を見極めるために、丁寧な問診に加え、必要に応じて舌の状態(舌診)、脈の様子(脈診)、お腹の張り具合(腹診)といった身体所見もあわせて確認し、その方の証に合った漢方薬を選ぶようにしています。

にきびに対しての駆瘀血剤として、「当帰芍薬散」、「加味逍遙散」、「桂枝茯苓丸」などがよく用いられます。いずれも婦人科領域で頻用される代表的な漢方薬で、それぞれの証に応じて使い分けられます。なお、「証」は一度決めたら終わりではなく、時間の経過や季節の変化、加齢、さらには治療への反応によっても変化する、いわば「動的な指標」(=状況に応じて変化する基準)です。そのため、処方後も経過を丁寧に観察し、必要に応じて証を再評価したうえで、漢方薬の見直しや調整を行います。

まとめ

にきび治療には、塗り薬や抗菌薬の内服といった西洋医学的治療に加え、体質や生活背景を踏まえた漢方治療を併用することで、より根本的かつ再発しにくい状態を目指すことができます。
ピルやスピロノラクトンなどのホルモン治療や、イソトレチノインといった内服治療も、重症度や背景によっては非常に有効です。一方で、こうした治療に抵抗がある方や、まずは体質にあわせた方法を取り入れたい方には、「証」に基づいた漢方治療も有力な選択肢となります。

にきびの改善には、皮膚だけでなく全身状態を含めた丁寧な評価と、時に体質へのアプローチが必要となることがあります。当院では、漢方・ホルモン治療・イソトレチノインなどの選択肢を組み合わせ、個々の状態に応じた多角的な治療をご提案しています。
漢方による体質改善を取り入れてみたい方、体質やホルモンの影響をふまえたにきび治療をご希望の方は、ぜひご相談ください。

skinfinity clinic医師 門沙央理(かどさおり)

参考文献

1) 小田 富美子. 美容と漢方. Bella Pelle. 2024;9(1):20-27.
2) 山﨑研志, 他. 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 2023. 日皮会誌. 2023;133:407-50.