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ドクターコラム

にきび治療総論:日本と国際ガイドラインをふまえて2025.5.9

skinfinity clinic医師の門沙央理(かどさおり)です。

尋常性ざ瘡(にきび)は、毛包・皮脂腺ユニットの異常により生じる慢性炎症性疾患であり、世界で最も一般的な皮膚疾患のひとつです。年齢を問わず発症しますが、特に思春期から青年期にかけての発症が多く、面皰(コメド)に始まり、丘疹、膿疱、重症の場合は嚢腫、結節といった多様な皮疹を呈します。皮脂腺の発達した顔面を中心に、左右両方に生じやすいことが特徴です。

にきびの発症には、遺伝的素因に加え、紫外線、スキンケア習慣、食生活、睡眠、心理的ストレスなどの環境要因が複雑に関与しています。病態の中心には、アンドロゲン(男性ホルモン)による皮脂腺の肥大と皮脂の過剰分泌、毛包内の角化異常、Cutibacterium acnes(旧称Propionibacterium acnes)などの微生物の増殖、それに対する免疫応答と炎症反応の活性化があり、これらが相互に作用して皮疹形成へと至ります。

図:左側は健康な方の毛包と皮脂腺を示しており、右側はニキビの症状がある方の毛包と皮脂腺を示しています。

にきび治療の最終的な目標は、瘢痕形成を防ぐことにあります。これを実現するためには、急性炎症期における炎症性皮疹を速やかに鎮静化し、早期に維持期治療へと移行する戦略が重要です。にきび治療は、急性期治療と維持療法という二つの柱によって初めて完結します。

日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、保険診療に基づく外用薬や抗菌薬の使用が標準治療として示されており、診療の現場でも広く実践されています。しかし、標準治療の枠組みにとどまる場合、炎症後紅斑や色素沈着、瘢痕などが残りやすく、にきび治療に対する満足度が十分に得られないことも少なくありません。

一方、アメリカ皮膚科学会(American Academy of Dermatology)による2024年の診療ガイドラインでは、スピロノラクトンや経口避妊薬によるホルモン療法、そしてイソトレチノインの使用が、重症度や病態に応じて明確に推奨されており、治療の選択肢がより多様かつ柔軟に提示されています。また、化学ピーリングやレーザー、光治療などの物理的治療についてもガイドライン内で言及されており、現時点ではエビデンスは限定的とされつつも、臨床的意義を有する可能性があると評価されています。

当院では、こうした国際的なガイドラインの知見も踏まえた治療戦略を導入しており、標準治療に加えて、症状や体質、ライフスタイルに応じてスピロノラクトンやイソトレチノインなどの内服療法を適宜導入しています。さらに、炎症後紅斑や色素沈着、瘢痕といったにきび跡の予防・改善を目的として、化学ピーリングやレーザー治療などの美容皮膚科的治療も積極的に組み合わせています。

これにより、通常の治療だけでは効果が不十分であった方においても、より包括的かつ満足度の高い治療成績を目指すことが可能となります。

以下では、それぞれの治療法について詳しくご紹介いたします。


米国皮膚科学会ガイドライン(2024年版)に基づいた、にきびの治療戦略

にきび治療には、局所外用療法、内服抗菌薬、物理的治療法(レーザーやピーリング等)、ホルモン療法、イソトレチノイン内服療法、食事や生活習慣の介入など、さまざまな選択肢があります。こうした治療の利点とリスク、にきびの重症度、病変の範囲や部位、にきびの症状がある方のライフスタイルや価値観を考慮し、治療戦略を個別化することが非常に重要です

 

局所外用療法

局所外用療法は、にきび治療の基本となるアプローチであり、単独または他の治療薬との併用により、急性期から維持期に至るまで幅広く使用されます。

米国皮膚科学会のガイドライン(2024年版)において強く推奨されている外用療法には、以下のようなものがあります:

  1. 過酸化ベンゾイル(BPO)
     ※商品名:ベピオ®
     抗菌作用と軽度の角質剥離作用を持ち、耐性菌を誘導しないという特長があります。C. acnesに対する耐性は報告されていません。単剤または他剤との併用で使用します。
  2. 外用レチノイド(アダパレン)
     ※商品名:ディフェリン®
     ビタミンA誘導体であり、毛包内の角化異常を抑え、抗炎症作用も有します。色素沈着を改善し、維持療法にも適応となりますが、刺激感に注意が必要です。
  3. 外用抗菌薬(クリンダマイシン)
     ※商品名:ダラシンTゲル®
     炎症性皮疹に有効だが、単剤使用は耐性リスクがあるため非推奨です。BPOとの併用により耐性リスクを抑えつつ効果を高めることが重要です。日本ではクリンダマイシン以外に、ナジフロキサシン(アクアチム®)、オゼノキサシン(ゼビアックス®)が主に使われています。
  4. 配合製剤
     - アダパレン+BPO:エピデュオ®
     - クリンダマイシン+BPO:デュアック®
     異なる作用機序を併せ持ち、治療効果と耐性対策の両面で優れた選択肢として推奨されています

その他、米国のガイドラインでは、条件付きで推奨される外用治療として、クラスコテロン(抗アンドロゲン外用薬)、サリチル酸、アゼライン酸などが挙げられています。
当院ではこのうち、抗菌・抗炎症・角質調整作用を併せ持つ外用薬であるアゼライン酸を取り扱っており、特に敏感肌や色素沈着しやすい肌質の方に適しています。また、美白効果も期待できることから、美容的な観点でも選択されることが多い製剤です。

 

内服抗菌薬

中等度以上の炎症を伴うにきび症状に対して使用されます。テトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)が主に用いられますが、中でもドキシサイクリンは、効果と安全性のバランスから最も強く推奨されています。これらは、抗菌作用に加え、抗炎症作用も期待できる薬剤です

ただし、抗菌薬耐性のリスクや副作用への配慮から、使用期間は通常3〜4ヶ月以内に制限されます。また、単剤使用は推奨されておらず、必ず過酸化ベンゾイル(BPO)や外用レチノイドなどと併用することが重要です

なお、抗菌薬はにきびの根本的な病態には作用しないため、当院では“悪化時の一時的な炎症コントロール”として位置づけています同じような悪化を繰り返しているにもかかわらず、何度も抗菌薬を内服し続けることは、耐性リスクや治療全体の長期的な成果の観点から最も避けるべき選択と考えています

そのような場合には、当院ではまず、日本のガイドラインにも記載されている漢方薬の併用を、にきびの背景に応じて検討しています。

それでも改善が不十分な場合には、比較的導入しやすいレーザーやピーリングといった物理的治療を併用し、さらに難治な場合には、ホルモン療法(スピロノラクトンなど)やイソトレチノインによる全身的な治療への移行を検討します。

にきびは多因子性の疾患であるため、一人ひとりに合わせた柔軟な治療戦略が重要だと考えています。

 

物理的治療法

物理的治療には、面皰の圧出、ケミカルピーリング(グリコール酸、TCA、サリチル酸など)、各種レーザー・光治療(PDL、Nd:YAG、IPL、赤・青色LEDなど)、マイクロニードル高周波などが含まれます。

米国皮膚科学会ガイドライン(2024年版)において、物理的治療は、一定の有効性が示唆されるもののエビデンスが不十分であるため、明確な推奨はされていないとされています。ただし、臨床現場では、適切に選択・施行することで大きな効果が期待できる場合があるのも事実です。

当院では、こうした国際的な知見を踏まえたうえで、独自に改良を重ねたブルーレーザー治療(Kado法)を積極的に取り入れています。詳しい施術内容については、こちらのコラムをご参照ください。

 

スピロノラクトン内服療法(ホルモン療法)

にきびの中でも、口周りや下あごに生じる炎症性皮疹は、特に治療抵抗性が高く、通常の標準治療だけでは改善が難しいことが少なくありません。
この部位は、アンドロゲン(男性ホルモン)に対する感受性が高いとされており、月経周期による影響も受けやすいと考えられています。

米国皮膚科学会ガイドライン(2024年版)では、こうした背景を踏まえ、スピロノラクトン(アルドステロン拮抗薬)が、女性のにきびに対して中等度のエビデンスに基づき条件付きで推奨されています。
特に、口周りや下あごに分布するにきび、または月経前に悪化するにきび
を有する女性に対して、有効な治療選択肢であることが明記されています。

スピロノラクトンは、にきびの原因のひとつであるアンドロゲンの作用を抑えることで、皮脂の分泌を減らし、にきびの発生を防ぐ働きがあります。
臨床研究においても、スピロノラクトンを1日50〜100mg内服した場合、標準治療(BPO 2.5%外用薬)のみの場合と比較して、有意に高い改善効果が示されています。

一方で、月経不順、不正出血、乳房圧痛、めまいなどの副作用が知られており、特に月経異常は使用量に依存して高頻度にみられることが報告されています。
そのため、ガイドラインでは、経口避妊薬(ピル)を併用することで月経異常を予防できる可能性が示唆されています。

当院では、ホルモンの影響が疑われる場合には、慎重に評価したうえでスピロノラクトン内服療法を選択肢の一つとしてご提案しています。
また、広尾まきレディスクリニックと提携し、ホルモン異常のスクリーニングや、ピル併用による副作用対策も積極的に行っています。
これにより、より安全で効果的なホルモン療法を提供できる体制を整えています。

 

イソトレチノイン内服療法

難治性のにきびに対して、イソトレチノイン(経口レチノイド製剤)は非常に有効な選択肢となります。

米国皮膚科学会ガイドライン(2024年版)によれば、高い確実性のエビデンスに基づき、条件付きで推奨されています。
イソトレチノインは、皮脂腺の縮小、皮脂分泌の抑制、毛包内角化異常の是正、抗炎症作用といった多面的な効果を持ち、にきびの病態全体に直接アプローチできる点が特徴です。

一方で、催奇形性リスクを含む重篤な副作用への注意が必要であり、適切な選択基準と治療管理のもとで使用することが求められます。

なお、イソトレチノインの位置づけについては、米国と日本のガイドラインで大きな違いが見られます。
米国ではエビデンスに基づき難治性にきびへの重要な治療選択肢とされていますが、日本の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、国内未承認のため推奨対象とはなっていません。
このため、イソトレチノインの使用は、各医療機関の方針に委ねられているのが現状です。

当院では、国際的なガイドラインに基づき、慎重な評価のもとイソトレチノイン内服療法を導入しております。
なお、イソトレチノインの作用や管理については、別コラムであらためて詳しくご紹介する予定です。

食事療法

にきびと食生活の関連については、近年多くの研究が行われています。
米国皮膚科学会ガイドライン(2024年版)では、食事のグリセミック負荷(GL)を下げることが、にきび改善に寄与する可能性があるとして、条件付きで推奨されています。

具体的には、高GL(グリセミック負荷の高い)食品の摂取を控えること(例:白パン、白米、菓子類、清涼飲料水など)や、無脂肪乳の摂取に注意することが推奨されています。2024年に行われた臨床試験では、低GL食と食事指導によって、にきび重症度が有意に改善し、肌質の向上や生活の質(QOL)改善も認められたことが報告されています。

一方で、他の栄養素や食品に関する検討も進められていますが、現時点では、ビタミンDや亜鉛、プロバイオティクスなどのサプリメント、チョコレートといった特定食品について、にきび改善に有効とする十分なエビデンスは得られていません。

このように、食事の見直しは標準治療を補助する一手段とされており、当院でも生活背景をふまえた上で、柔軟な治療プランをご提案しています。

まとめ

当院では、国内外の最新ガイドラインに基づき、標準治療にとどまらない柔軟かつ個別化された治療方針を大切にしています。一人ひとりの症状や背景に応じて、最適な治療をご提案し、長期的な視点で肌の健康をサポートしてまいります。

 

参考文献

1) Deng Y, et al. Skin Barrier Dysfunction in Acne Vulgaris: Pathogenesis and Therapeutic Approaches. Med Sci Monit. 2024;30:e945336.
2) Reynolds RV, et al. Guidelines of care for the management of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2024;90(5):1006.e1–1006.e30.
3) Raza Q, et al. Effect of a Low-Glycemic-Load Diet and Dietary Counseling on Acne Vulgaris Severity Among Female Patients Aged 15 to 35 Years. Cureus. 2024 Nov 2;16(11):e72886.