肝斑(かんぱん)という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
両ほほや目元、こめかみなどに良く出現する、境界が比較的はっきりとわかりやすいくすんだエリアのようにみえるシミの一種です。日々の診療で肝斑が出現している方を診察していると、ご自身で肝斑の部分をはっきりと理解している人はごく少数です。肝斑が存在するエリアを正確に指摘すると「これが肝斑なんですね」という驚いたリアクションをされる方がとても多い印象です。
肝臓の「肝」という漢字が含まれますが、肝臓の機能が悪いと出現するということではなく、直接的に内臓とは関係はありません。肝斑の形状が肝臓の形に似ているからなどという説もありますが、よくわかっていません。
肝斑はごく軽度の慢性的な皮膚の炎症による色素沈着というとらえ方もあります。あらゆる外的刺激は肝斑にとってよくないと考えられていて、特に摩擦(こする刺激)は肝斑3大悪化因子の一つとも言われるぐらい重要な悪化要素です。
そのため、まずは肝斑治療のスタートはスキンケア指導から始まります。洗顔やメイク、枕カバーの素材、エステ等のマッサージの有無など、あらゆる皮膚に対する刺激をいかに軽減・排除できないかを探るのです。それほど神経質になる必要はありません。刺激の要素が肝斑の発生要因として大きい人の場合、現状で100あるとする刺激を70や60にするだけでも長期的にはそれだけで肝斑の症状が良くなることもあります。できることからなるべく排除していきましょう。
3大悪化因子の2つめは女性ホルモンです。妊娠中に女性ホルモン値が高まるにつれて肝斑が悪化することもあったり、逆に長年肝斑に悩んでいた人が、閉経を迎えると同時期に自然と肝斑が消失するような例も経験します。これらのことからも、女性ホルモンは肝斑の悪化因子であることは間違いないと考えられる一方で、なかなか対処は難しい要因といえます。
3大悪化因子の3つめは紫外線です。これは肝斑に限らず、あらゆるシミに共通している悪化因子です。これからシミ・肝斑治療をしていこうと考えている方や治療後の良い状態を長く維持し、再発を防ぐ意味でも紫外線対策は1年を通して大切です。
これらの生活指導は肝斑をお持ちの方にとってはとても重要です。せっかく肝斑治療をがんばって綺麗になったとしても、今までと同じ肝斑を作り出すような生活を送ってしまっては一瞬で再発することもあります。
肝斑は悪化は急速に起こりえますが、それを薄くするにはそれよりも通常はかなり多くの時間を要する症状なのです。
現状では多くの美容皮膚科はトラネキサム酸やビタミンC、ビタミンEやグルタチオンなどの内服治療に加えて、QスイッチYAGレーザーやピコレーザーを使ったトーニングやピコトーニングを2本の柱となる治療としています。
これにオプションとしてピーリング系の治療やイオン導入やエレクトロポレーションのような皮膚表面から薬剤を浸透させる治療、高濃度ビタミンCなどの点滴治療などが加えられていることがあります。
肝斑が気になって美容皮膚科を受診した場合や、他の悩みで美容皮膚科を受診した場合でも、肝斑治療を勧められるとたくさんの治療メニューが並んでいることに驚く方もいらっしゃると思います。
あくまで大切なことは内服ではトラネキサム酸。処置ではトーニングやピコトーニング。この二つがあくまでも治療の2本柱で最低限この2つから始めてみるのがよいということだと思います。大切なイベントに合わせたいなど早期の治療結果を求めるような場合には他のオプション的な治療も加えてみるのもよいと思いますが、柱となる2つは欠いてはいけません。
これまでお話しした①スキンケア指導②トラネキサム酸内服③ピコトーニングの3つを的確に行えば、通常は1~2ヶ月以内に肝斑は急速に改善していきます。
肝斑の場合に問題となるのは、治療後の綺麗な状態をいかに維持していくかということに尽きます。
肝斑と一言でいっても、細かく分類するといくつかのタイプに分かれると感じています。その中でも「外的刺激による悪化要素が強い肝斑」の場合、治療により良くなった後もこれまでの生活を改めて、肌に極力刺激の加わらない生活をつづけることで肝斑再発を抑えることができます。
しかし、肝斑をお持ちの方の中には、元々「こすらない」生活を実践して極力刺激を排除した生活を心がけていた人もいらっしゃいます。このようなケースでは、内服やレーザートーニングといった治療期間中は良くなるけど、やめるとだんだんと肝斑が再発するということもしばしば遭遇します。トーニングは症状を軽減する治療ではあるけれど、肝斑を根本的に治療する治療ではない可能性が高いのです。
その結果、トラネキサム酸を何年も飲み続けていて、トーニングを通算で何十回もずっと行ってきたというような人も多く見かけます。
近年、肝斑が存在する部分で共通した変化がみられると海外で報告されることが増えてきました。それは「基底膜(きていまく)の変化」です。
皮膚表層の表皮とその土台となるコラーゲンの層の真皮の間には仕切りとなるような基底膜という構造があります。基底膜よりも表層の部分は絶えず細胞が生まれ変わってターンオーバーと呼ばれる変化がおこります。これはシミや肝斑の原因となるメラニンという色素を追い出す力ともなっています。
しかし肝斑の部分ではこの基底膜の構造がもろくなり、非常に薄くなっていたり、部分的に基底膜に穴があいているという報告が海外論文でも相次いでいます。基底膜が仕切りの役割をできないと、表皮のターンオーバーで追い出されるはずのメラニン色素が、真皮側に落ち込んでしまうというようになります。
これがどんどんと色素が沈着していく難治性の肝斑の実態ではないかという考え方です。
私もこの説のもとで、基底膜をいかに修復するかということを念頭に肝斑治療をここ数年行ってきました。
この写真の方はこれまでありとあらゆる肝斑治療を他院様も含めて行ってきましたが改善がなかなか難しい難治性の肝斑をお持ちでした。
「肝斑の基底膜アプローチ」と私は呼んでいますが、これまでとは違うこのアプローチを行ったところ急速に改善が見られました。しかも治療後長期間長期間(半年・一年)経過しても再発傾向が見られていないという点も重要です。
基底膜アプローチはトーニングや内服治療のように肝斑を「軽減する」治療とは異なり、肝斑を「根本治療する」可能性を秘めていると感じています。
トーニングや内服治療をいきなり開始するよりも、まずは基底膜の強化を行った上で開始した方が非常に効率よく肝斑が抜けていくことを実感します。そして、綺麗に仕上がった状態が維持されて再発が少なくなる印象を持ちます。
肝斑と一言で言っても細かく分類するといくつかにわかれると考えていますが、どのタイプであれこの基底膜アプローチは取り入れる価値があると思っています。
いろいろな治療行ってきたけど良くならない難治性の肝斑や、再発を繰り替えす肝斑をお持ちの方にはぜひお試しいただきたい新たなアプローチです。
これまで様々な手法を用いて基底膜の強化を狙ってきました。その中で現状では3つの手法を使い分けています。
それぞれ肝斑のタイプや症状によって使いわけています。リバースピールやダーマペン4、そして基底膜修復のためにシリコンバレーで開発された専用のマシン「シルファーム」の詳細につきましてはまた別の機会のお話します。