脂肪溶解注射の中でも「顔用の脂肪溶解注射」と呼ばれる製品群が5~6年ほど前から登場し、今現在でも多くの人が治療を受けています。
メニューとして取り扱うクリニックも増加傾向が続いてきた影響で、日本国内でもかなりの症例数が積まれてきているものと思います。お顔の脂肪が気になる場合にはクリニックにおいては「脂肪吸引手術」しか選択肢が無かった時代と比べると、ほとんど腫れなどのダウンタイムがなく気軽に行うことができる脂肪溶解注射は魅力的に感じる人が多いのでしょう。
当院でも顔の脂肪に対して治療を希望する方からのお問い合わせは大変多く、連日のように多くのメール相談にもお答えしています。
この5~6年ほど前から加速した印象のある「お顔の脂肪溶解注射ブーム」はすっかり定番メニューとして定着した感があります。国内で実施するクリニックも増加傾向が続いて多くの人が治療を受ける中で、他院で治療後に好ましくない変化となってしまい悩んでいる方からのご相談件数も増えつづけてきました
皆様への注意喚起という意味でもこの現状を公開する必要性を感じますので、今回はあえてこの話題に触れたいと思います。
そもそもなぜお顔の脂肪溶解注射がちょっとしたブームになったのでしょうか。 脂肪溶解注射という治療が、これまでどういう位置づけで行われてきたかを知る必要があります。
今から5~6年より以前に主流だった脂肪溶解注射の主な成分はPPCという成分でした。20年ほど前から日本で出回り始めた歴史ある成分です。改良が進んで、様々な成分が添加された製品が何種類も流通しておりますが、主成分は一緒です。
この脂肪溶解注射。 「あんまり効果ない」 といった意見や、 「少しは効果あったかな」 という意見。 「すごくよく効いた」 という意見まで様々です。美容外科医や美容皮膚科医など、脂肪溶解注射をメニューとしておいている医師の中でも使った印象は同様に真っ二つに分かれている印象です。
つまり、「脂肪溶解注射ってあんまり効かないよね?」 といっている先生もいれば、「脂肪溶解注射は結構効くよ」 とおっしゃっている先生もいるというのが現状です。
私の考えは後者です。 結構効きます。
「脂肪溶解注射はしっかりと効果の出る打ち方をすれば高い効果を実感する治療。満足度のとても高い治療。」 だと思っています。 つまり、お薬自体にしっかりと脂肪を溶解する能力はありますが、注射の打ち方が重要ですということです。
「脂肪溶解注射がうまい先生ってどういう先生ですか?」 と聞かれたら私はこう答えると思います。
「脂肪吸引手術が上手な先生は間違いなく、脂肪溶解注射の満足度も高い」
私も美容外科医ですので、脂肪吸引手術も多数の経験があります。その経験から感じることは、脂肪吸引というのはドクターによって仕上がりの精度のばらつきがとても高い手術だということです。
脂肪の性質の違いを理解して、根こそぎ吸ってよい部分と絶対に手をつけてはいけない部分(残すべき部分)はもちろん熟知していなければなりません。 脂肪の層を密度や深さも均一に吸引する基本的な技術を習得するのにも相当な経験を要します。 そして、そのうえでさらに重要なことは、全体のバランスを見ながらデザインするデザイン能力(センス)です。
つまり、脂肪吸引手術を『それなりの仕上がり』ではなく、『上質な仕上がり』 まで追求するとなると、ドクター側にとても高度な知識と経験、センスがそろわないと成立しません。それほど、ボディデザインの美容医療というのは、美容外科のなかでも難易度の高い、奥の深い治療です。
全く同じ、ボディデザインの美容医療であるにもかかわらず、脂肪溶解注射はあまりに安易にさまざまなドクターが手を出している印象があります。
「どうせそんなに効果でない治療だから、とりあえず打ってみればいい。大きな問題にはならない。」 と軽い感覚で治療を行っている医師がいるのも残念ながら事実です。 効果の出るしっかりとしたウチ方ができていないのが、逆に救いだったとしかいいようがありません。
脂肪吸引の手術経験があれば、注射で打つべき層、深さ、最適な位置は指先の感覚的に自然とわかります。それにより最も効果のでる打ち方も可能となります。減らしてよい部位や減らしてはいけない部位は、もちろん脂肪吸引前のデザインと共通しています。
「脂肪吸引の仕上がりが綺麗なドクターは、脂肪溶解注射をやらせても満足度が高い」 これは当然なことです。
さてそこで、ここ数年で流行している、「お顔用の脂肪溶解注射製剤」 の登場です。
かつてのPPCを主成分とする脂肪溶解注射は、お顔に打つと とんでもなく腫れました。 腫れなどのダウンタイムがでる期間がいやなので脂肪吸引ではなく脂肪溶解注射を選択するわけですが、これでは全く意味がありません。 そのため、お顔に脂肪溶解注射をやりたいという方でも、お話しの上で「そうなんですか・・・、残念」 とお顔の脂肪溶解注射はあきらめているという状態でした。
こんな中でではじめたのが、BNLSや輪郭注射などの「お顔用の腫れない脂肪溶解注射」 と呼ばれる製品たちです。 韓国製やスペイン製などがあります。
これまでの経験ですと確かに腫れはほとんど感じません。薬剤中の水分によるむくみを数時間感じる程度で済み、ほぼノーダウンタイムといえる範囲内となりました。これまで注射による脂肪溶解治療ができなかった顔が治療できるようになったという点は大きかったと言えます。
お顔の脂肪は体の脂肪の量と比べると、とてもわずかな量です。太ももの脂肪吸引では2000ccや3000ccなどの吸引量は普通ですが、お顔の場合は脂肪吸引を行ったとしても数十cc~多くても数百ccというまさに桁違いです。
お顔はこれほどわずかなボリュームの変化だけでも、顔の形の変化がはっきりとわかる場所です。 だからこそ、脂肪吸引と比較して一回当たりの変化がわずかな注射でも、繰り返しやることで、しっかりとした変化までだせるようになっている。 これがブームの始まった背景だと思います。
これまで、腫れる製剤しかなかった時代には、やりたかったけどやれなかった人たち。 その人たちが「腫れないのであればやりたい」と、興味を示して需要は急増しました。
このような状況の中、これまでにボディデザインの治療の経験のない医師やお顔の脂肪吸引の経験のない医師が安易にこの治療に手を出すケースが増えつづけてきた印象です。
その結果、私どものクリニックに来院される方の中でも、
「他院で顔の脂肪溶解注射を勧められてやったら変になった」
「左右がバランスがおかしくなった」
「余計にたるんだ」
「やせこけてしまった」
「たるみが治るといわれてやったが、余計に老けた」
このような好ましくない変化となってしまい悩んでいる方からの相談が後を絶ちません。
「大量に打たないと効かない」と言われて一般的に行われている量よりも10倍以上の量を打たれているケースもありました。例え効果的な注入方法で行われていなかったとしても、これだけ大量に打てばそれなりに減ってしまいますし、減らしたい部分の周辺部分まで減ってしまい、デザイン性はなくなります。
お顔の脂肪を減らす治療をする際には治療前デザインは大変重要です。 ボリュームを取った方がいい場所と、取ってしまうと逆に老けてしったり印象の悪くなる場所というのが存在します。しかもそれらは近接しています。
基本的な知識の不足ばかりでなく、そもそも適応のない人にまで打たれていると感じるケースもあります。一旦減ってしまったボリュームは基本的には戻りません。注射というと「お試し感覚で手を出してみよう」と思う方もいらっしゃると思いますが、治療を受ける際にはクリニック選びは慎重にする必要があります。
お顔はわずかな脂肪の減少で印象が大きく変わる場所。 脂肪の量が多いからだでは未熟な技術者による処置でも被害はわかりにくかったですが、お顔ですと目に見えてわかります。
「腫れないお顔用の脂肪溶解製剤が登場」 これにより一気に需要が高まり続けてきたこの治療。 それを使いこなす技術者はまだ圧倒的に不足しているといっていいでしょう。