美容クリニックに行った経験がなく、美容医療とはどういうものかよくご存じない方であっても、「ヒアルロン酸注射」という言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
ヒアルロン酸自体は人間が体内にもともと持ち合わせているものですし、本来は注射で体内に入れたものは取り出すことは困難であるにも関わらずヒアルロン酸の場合には「溶解剤」があり、溶かしてなくすことが可能です。
このようにアレルギー反応の起こりにくさや、いつでも元に戻すことができるという安全性を背景に、美容クリニックではヒアルロン酸注射は実際によく行われる治療の一つです。
テレビで見た芸能人や知人などが以前とは違う印象の顔になってしまい、「膨らんだ印象」「圧迫感のある印象」となっているのを目の当たりにした経験をお持ちの方は、ヒアルロン酸注射はあのように不自然になるものと捉えてしまっているようです。
しかし本来はヒアルロン酸注射後の仕上がりは極めて自然で、通常はこれまで長い年月を共にしてきたお友達に久しぶりに会ったとしても違和感を感じさせるものではありません。自然さを追求した注入方法で入れる限り、周囲の人から違和感を感じられることはまずなく、指摘されることもありません。不自然に感じる例は失敗例だということになります。
一言でヒアルロン酸治療と言っても、医師によってコンセプトや注入方法も全く異なります。別人のような大きな変化を目指して治療する医師もいますので、依頼する場合にはどのような変化を起こそうとしているのかを十分に話し合うことは大切です。
それでは今回は私が担当した実際のヒアルロン酸治療の例を承諾を頂きましたモニター様のお写真で見てみましょう。
まずは治療前の状態です。
こちらの女性は定期的にメンテナンスさせて頂いておりますので、年齢よりも若々しい印象で、タルミも軽度でシワも多くありません。しかし、やや年齢を上げてみせる要素と、やや疲れた印象、やつれた印象をわずかながら与えている場所がいくつかあります。
これは加齢変化により本来あった脂肪のボリュームが失われ、立体感が不足してややくぼみとなっている部位です。
まずは目の下のこの部分。以前よりも立体感が不足して、うっすらと影が入りやすくなり、光の当たり具合によっては影がやつれた感じのクマの印象を出し始めています。
そして次にこの頬の部分。この部位も加齢変化によりボリュームが失われやすい部位です。この部分が本来のボリュームを失うことで、わずかなタルミ感を強調して目立たせていることに加え、ほとんど出っ張っていない頬骨が出っ張ったように感じさせています。
輪郭の線を追ってみても、頬骨直下の部分に凹みを生じていて、このわずかな変化であっても周囲の人への印象はだいぶ変わってきます。
コメカミ部分もややボリュームが減っていますが、今回は目の下のくぼみと頬のくぼみに対する治療をまずは行いました。
治療時間は5分ほどで終了します。部位や目的によって様々なヒアルロン酸を使い分けていきますが、今回はジュビダームビスタボリューマという製剤を使用しておりますので2年近い持続が期待できます。
これが治療後の状態です。
「ん?どこが変わったかよくわからないな??」
と感じた方も多いかもしれません。症例写真上ではその程度の変化であっても、実際にお会いすると「何かとても綺麗になった」「元気な印象になった」と誰もが感じます。しかし、一般の人は近くでお話したとしても、どこをどう変えたのかは指摘することはできません。
症例写真というのはあくまで静止画の一瞬でしかありません。わかりやすい変化の症例写真を追求するあまり、写真上は綺麗に変化しているように見せられたとしても、実際に会い、動いているところを見ると不自然と感じてしまうということもありますので注意しなければなりません。
極めて自然な上質な変化に求められる要素として私は次のことが大切だと考えています。
症例写真の時のように無表情の時にある角度から綺麗に見えたとしても、肝心の他人と会ったお話ししているときなどに「動いた時に不自然」であっては全く意味がありません。
そして本来あるべき部分にあるべき姿で丹念にボリュームを補充することで、触られた触感も自然となります。
いつもお話していることですが、ヒアルロン酸はあくまでボリュームが加わる治療ですので、「鼻を高くしたい」というご要望や「あごの形を変えたい」などのような整形的な入れ方をする場合は別として、基本的には加齢変化によってボリュームが失われた部分に失われた量だけを補充するということがまずはじめに行うべき第一歩だと思います。
治療前と治療直後の写真を並べてみて、どこがどう変化したのかを観察してみましょう。
ぱっと見の印象は右側の治療後の方がやはりなんとなく若々しい感じがします。疲れが取れて、元気な印象になったようにも感じます。頬から下全体が「キュッと」引き締まり、引き上がったようにも見えます。その後は細かく左右を何度も繰り返し見比べてみてください。
輪郭の線を追ってみると、頬骨の下のくぼみがなくなくなり、口横にあったタルミによる膨らみの印象もなくなっています。
目の下のくぼみ部分は自然な立体感が戻り、クマがほぼ消失して肌のハリもでています。さらにこれにより ほうれい線 は浅く感じます(ほうれい線にはダイレクトにヒアルロン酸は入れておりません)。
これらの指摘は写真を左右にならべて、一つ一つ見比べると可能ですが、実際の現実世界において以前の印象と細かく比較することは極めて困難です。しかし、本来お持ちであったボリュームを正確に取り戻す治療である以上、長年おつきあいのあるご友人様に久しぶりに会ったとしても、不自然さを感じさせることは全くありません。
さらに目の下や頬のヒアルロン酸注入部位には特殊な方法で治療を行っておりますので、触れたとしても異物感を感じることがほとんどありません。これは非常に重要な要素で、動いたとしても「何かが入っている感」を感じさせないために必要なことにもつながります。
一方で、ヒアルロン酸注射のセミナーなどでは「裏技的な入れ方」の紹介も多く行われるようになりました。
当院でも適応の方には十分に話し合ってから行うことがある、「アリアナリフト」と呼ばれる入れ方もその一例です。これはエラ付近の骨格の発達が小さい方がよく適応となるもので、持ち上げ力にすぐれたヒアルロン酸によりエラ付近の骨格を強調するような入れ方をすることでフェイスラインをすっきりと見せるという手法です。
これは海外の著名なドクターが好んで行っている治療法で、アンジェリーナ・ジョリージョリーなどがその治療を受けているとも言われています。また、頬骨の上にヒアルロン酸を注入することで口のワキあたりのタルミを引き上げる「○○リフト」などと言われる手法もあります。
これらの手法は元々お持ちの「骨格」にターゲットを絞った裏技的な入れ方で、本来のご自身のお顔の印象とは変わる可能性がある点に注意しなければなりません。そのため、「下あごのエラの張りが小さくて顎の下が常にたるんだような印象になるのを変えたい」など、その変化を必要としている人にとっては気軽に行うことができるとても良い治療だと思います。決して万人が適応となるものではなく、必要かどうかをしっかりと見極めることが大切です。
そしてホホ骨の部分に入れてボリュームを加え、リフトアップを狙う入れ方も海外の著名なドクターは好んで行っておりますし、日本でもその入れ方のセミナーが盛んに行われている影響で国内でも普及しています。この治療のそもそものスタートには、「加齢変化によって骨の変形と萎縮がおこり、ボリュームがなくなっている部分だ」という前提条件があります。
しかしながら、アジア人は欧米の人種と比べてこの部位の骨の変形や萎縮は起こりにくいため、必要以上にこの部位にボリュームを加えられて「顔の横幅が広くなった気がする」「カマキリのような顔つきになってしまった」などと、心配になった方からのご相談も後を絶ちません。
「引き上がる」というのは自然に入る範囲内で注入を行ったことにより、結果として得られるものであり、「引き上げます」という約束の下でヒアルロン酸注入を行うことには本来のご自身の顔から離れ始める危険な部分がありますので、この点にも注意が必要だと思います。