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ドクターコラム

肝斑とは ー刺激因子と真皮環境に注目した根本的な治療戦略ー2025.3.21

Skinfinity clinicの門沙央理です。

肝斑は、頬骨のあたりを中心に左右対称に広がる色素沈着の一種であり、他のシミ(日光性色素斑やそばかす)とは異なる特徴を持ちます。一見目立ちにくく、ファンデーションでカバーしやすいため、気づかないことも多くあります。しかし、肝斑を適切にコントロールしないまま他のシミ治療を受けると、逆に色素沈着が悪化する可能性があります。 そのため、肝斑を正しく見極め、適切に管理することが重要です。

近年の研究では、「メラノサイト(メラニンを作る細胞)を刺激する因子」 が肝斑の発症や悪化に大きく関与していることが明らかになっています。メラノサイトの活性化には下図のように、 紫外線・摩擦・女性ホルモン・遺伝的要因 などが複雑に絡み合い、これらが相互に作用することで 「メラノサイト刺激因子の増加」 を引き起こします。その結果、色素沈着が悪化しやすくなります。

皮膚は角層、表皮、基底膜(表皮と真皮を隔てる重要な構造)、真皮の層で形成されていますが、表皮の炎症だけでなく、真皮の炎症や基底膜の破壊 が肝斑の難治化に寄与することが分かっており、単なる美白治療では十分な改善が得られないケースも多く見られます。さらに、誤った治療によってメラノサイトが過剰に刺激され、かえって肝斑が悪化することもあります。そのため、肝斑の治療では 「メラノサイトの過剰な活性化を抑え、基底膜と真皮環境を整える」 ことが重要なポイントとなります。

図:メラノサイトを刺激する因子と皮膚構造

 

本記事では、肝斑の発症メカニズムと最新の知見を基に、適切な治療アプローチについて詳しく解説 します。

 


メラノサイトを刺激する因子

メラノサイトを刺激する因子は、以下の4つが考えられます。

1. 紫外線 2. 摩擦 3. 女性ホルモン 4. 遺伝的要因

これらの因子が表皮だけでなく 「真皮の炎症」や「基底膜の破壊」 を引き起こし、肝斑を悪化させるメカニズムについて解説します。

■1. 紫外線

紫外線は肝斑を悪化させる最大の要因です。特に UVA(長波長紫外線) は真皮中層まで到達し、真皮の炎症や老化を引き起こします。紫外線は 表皮と真皮の両方の経路でメラノサイトを刺激し、さらに基底膜を破壊することが知られています。

<表皮の経路>

 

<真皮の経路>

<基底膜の破壊>

紫外線の影響で、基底膜が破壊されることも肝斑の悪化に関与しています。基底膜は、表皮の細胞が真皮に落ち込まないように支える「バリア」のような役割を果たしています。

紫外線はタンパク質分解酵素(MMP-2、MMP-9)を活性化し、基底膜を構成するコラーゲンを分解します。
また、肥満細胞から分泌されるトリプターゼもMMPを活性化し、基底膜の破壊を促進します。

基底膜が破壊されると、メラノサイトやメラニンが真皮に落ち込みやすくなります。これにより、表皮層のみをターゲットにした治療(一般的な美白治療やレーザー治療)では十分な改善が得られにくくなり、肝斑が慢性化しやすくなります。

このように、紫外線の影響は単に色素沈着を増やすだけでなく、真皮の炎症や基底膜の破壊を引き起こすため、肝斑の治療には総合的なアプローチが必要になります。

 

■2. 摩擦

 

■3. 女性ホルモン

妊娠や経口避妊薬の使用を契機に肝斑が悪化することがあり、エストロゲンやプロゲステロンの影響でメラノサイトが刺激される ことが示唆されています。

 

■4. 遺伝的素因

紫外線や女性ホルモンとは異なり、遺伝的素因は肝斑の発症の原因であるというはっきりした報告はありませんが、肝斑の主な原因の一つと考えられています。

 

紫外線、摩擦、女性ホルモン、遺伝的素因、これらによって、周囲の組織からのメラノサイト刺激因子が増加し、たがいに刺激し合ったりと負の連鎖の環境を作っています。この刺激因子を鎮静化し、この負の連鎖を断っていくことが、肝斑、メラノサイトをコントロールすることで最も重要となります。

活動性の高い肝斑と安定している肝斑

肝斑の治療計画を立てる上で、まず「活動性の高い肝斑」と「安定している肝斑」を区別することが重要です。

<活動性の高い肝斑>

<安定している肝斑>

ただし、「色が濃い肝斑=活動性が高い」とは限りません。治療経過を観察しながら判断することが重要です。

 

当院の治療アプローチ

肝斑の発症メカニズムに基づき、表皮・基底膜・真皮を包括的にケアする治療を行っています。全ての方にまず第一選択となるのは保存療法です。その上で、必要に応じて機器治療などを検討していきます。

1.保存療法(遮光・スキンケア・内服外用療法)

<遮光・スキンケア>紫外線はあらゆるメラノサイト刺激因子を生み出す根元になっているため、紫外線対策は最重要になります。最近の研究では、可視光線も色素沈着に影響を与えることが分かっており、酸化鉄を含む日焼け止めの使用が推奨されます。

また紫外線予防に角層を守るための刺激の少ないスキンケアも大切となります。

 

<内服治療>トラネキサム酸の服用が効果を期待できます。トラネキサム酸はメラニン沈着を抑えるだけでなく、血管新生や肥満細胞の活性化を抑える働きもあります。抗酸化剤(ビタミンC、ビタミンEなど)はいくつかの研究でメラニン沈着抑制効果が報告されていますが、エビデンスレベルはやや低くなります。

<外用薬>メラニン生成を阻害するために、チロシナーゼ活性阻害作用のある美白剤を併用します。ハイドロキノンが有名ですが、最近ではルシノールなどのかぶれや刺激が少ないものおすすめしています。

 

2.機器やピーリングによる治療

保存療法に加え、表皮・基底膜・真皮の各層にアプローチする治療を行います。

<高周波治療(シルファーム)>肝斑専用の機器です。基底膜を再構築し、異常毛細血管内皮細胞を効率的に修復、また老化線維芽細胞を減らし、真皮の環境も整え治療の持続効果を高めます。

<ピーリング治療(リバースピール)>肝斑専用のピーリング剤です。3段階のピーリング剤を使用し、真皮層から表皮層に向かって働きかける「逆方向アプローチ」で作用します。これにより、基底膜が脆弱になり真皮に落ち込んでしまったメラニンも排泄しやすくなります。

<レーザー治療(ピコハイ・トーニング、532nmDOEピコハイ・フラクショナル)>ピコハイトーニングは、表皮のメラノサイトやケラチノサイトに蓄積したメラニンを破壊・排泄し、肌全体のトーンを均一化します。また、レーザーが真皮に届き、コラーゲンやエラスチンを再構築することで、真皮由来のメラノサイト刺激因子を抑制し続ける効果が期待できます。

 

ピコハイトーニング単独では再発することが多いため、まずシルファームで基底膜と真皮環境を整え、その後ピコハイトーニングでメラニンを排泄する流れが推奨されます。また、ピコハイトーニングは安定した真皮環境の維持療法としても役立ちます。

さらに532nmピコハイ・フラクショナルとピコハイトーニングを同日照射するピコハイ・デュアルトーニングを行うことで、より効果的にメラニンを排泄し、肝斑の色素沈着を強力に改善します。

 

まとめ

肝斑の治療は、真皮レベルの炎症や老化の管理を含む総合的アプローチが必要です。近年の研究では、紫外線防御の重要性、トラネキサム酸の効果、そして基底膜、真皮に注目したシルファームなどの新しい治療選択肢が注目されています。

お肌の状態や生活習慣に適したアプローチを選択することが、肝斑の改善と再発予防の鍵となります。適切な治療を行うことで、より安定した肌状態へ導くことが可能です。肝斑についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。

 

【参考文献】

1)Jo JY, et al. Update on Melasma Treatments. Ann Dermatol. 2024;36(3):125-134.

2)黄 聖琥. 高周波(radio frequency:RF). Derma. 2023.10; 340号 Page101-110