スキンフィニティクリニック医師の門沙央理です。
フェイスラインをすっきりさせたいというご希望で、エラボトックスを希望され受診される方は多くいらっしゃいます。
ボツリヌストキシン注射は、咬筋の過度な発達によるエラ張りを改善し、下顔面をシャープに整える有効な治療です。
しかし実際には、すべての方に適しているわけではありません。
咬筋の張りよりも頬のボリュームロス(こけ)が目立つ方や、すでに軽度のたるみがある方では、エラボトックスによってさらに輪郭のバランスが崩れて見えることがあります。
そのため当院では、エラボトックスが適さない場合には、フェイスラインを整えるためにハイフなどのたるみ治療やボリューム補充のヒアルロン酸注入など、他のアプローチをご提案しています。
また、適応がある場合でも、頬がこけて見えないように注入範囲や深さを細かく調整することが大切です。
エラボトックスは、神経筋接合部でアセチルコリンの放出を抑制し、咬筋の過活動を抑えることで筋肉の容積を徐々に減少させます。
数週間から数か月かけて下顔面の張りがやわらぎ、手術することなしにフェイスラインを整えられる治療として確立しています。
一方で、近年の報告では、咬筋ボリュームの減少に伴って頬のこけ(sunken cheek)が生じるケースもあり、美容的に問題となっています。
エラボトックス後に頬がこけて見える原因として、以下が考えられています。
・注入範囲が高すぎる場合(浅層や頬骨下付近まで拡散)
・投与量が多すぎる場合
・元々頬脂肪体が少ない、または頬骨が高い骨格の場合
これらの条件では、中顔面のボリューム支持構造が弱まり、相対的に頬がへこんで見えると考えられています。
特にアジア人では、欧米人に比べて頬脂肪体の位置が低く、わずかな咬筋の容積減少でもこけが目立ちやすい傾向があります。
近年の研究では、頬のこけを防ぐために咬筋上縁を従来より低く設定した注入デザインが提案されています。
注入範囲を下顎下縁より1 cm上方までに限定し、上方(頬骨付近)への拡散を避けることで、頬脂肪体のボリュームを保ちながら安全に咬筋を縮小できると報告されています。
当院でも頬のこけにつながらないように、ボトックスの拡散範囲を意識した注入デザインを考えます。
このように、エラボトックスは正しく行えばフェイスラインを整える優れた治療ですが、骨格や脂肪分布、筋層構造を考慮しない一律の注入では、かえって輪郭のバランスを損なう可能性があります。
そのため、フェイスラインを崩している要因が頬のこけやたるみである方には、エラボトックスは適応とせず、たるみ治療やボリューム補充を優先します。
エラボトックスは人気のある施術ですが、実はしっかりと見極めが必要な治療です。
参考文献
1) Huang S-L, et al. A novel injection technique to prevent exacerbation of sunken cheek after botulinum toxin type A treatment for masseter hypertrophy: A prospective clinical study. Journal of Cosmetic Dermatology. 2025; 24:e70120.