Skinfinity clinic 院長の橋本です。
たるみ・引きしめの治療として耳にすることが多くなった「ハイフ」というエネルギーを加えるマシンについて、様々な発言を目にするようになりました。同時にこの治療に関するご質問も多くいただきますので、10年以上ハイフ系のマシンを自身で施術してきたものとしての現在の私の考えをまとめておきたいと思います。
(当院ではハイフ系のマシンは「ウルトラフォーマーMPT」というマシンです)
ハイフというエネルギーは超音波を虫メガネのように焦点を集中させて、細かい点状に高温を発生させます。皮膚内部だけでなく、皮下組織や場合によっては脂肪層をターゲットにすることもできるため、重要な神経や血管の走行という顔面解剖を熟知していないものが扱うと危険なマシンです。
逆に解剖を熟知して、施術技術を磨いている経験豊富な施術者が行う限り、すべての副作用は回避可能ともいえます。しっかりとした引き締めとタルミ治療効果は非常に魅力的で、当院でもタルミ治療の重要な位置づけの一つとなっています。正確にはカウントしておりませんが、10年以上連日複数件おこなってきましたので、5千件以上は施術を行ってきたと思います。それでも、いまだに一人ひとり全神経を集中して施術を行っています。他の美容皮膚科のマシン全体に言えることではありますが、「マシン名で選ぶより、施術者は誰なのか」を重視するべき治療のひとつであることは間違いありません。
美容皮膚科の他のマシンと比べれば、より深部の層までしっかりとした強いエネルギーで狙い撃ちするため、私は「ハイフ系マシンは医師が行うべき」と10年以上前から一貫してお話してきました。普及していくに伴い必ず「頬がコケてしまった」というような好ましくない変化や、やけどや神経損傷、失明などの非常に重篤な合併症が増えてくることが予想できたからです。
繰り返しますが、これらの好ましくない変化や重篤な合併症のすべては正しい解剖知識と照射技術をもつ施術者であれば完全に回避できます。
私がクリニックを開業した10年ほど前は美容皮膚科はまだまだマイナーな領域でした。有名な美容皮膚科は都内でも数えるほどしかありませんでしたが、そこから月日が流れて開業ラッシュも加わり、美容皮膚科の件数は激増しました。
以前はクリニックを開業する場合には大学病院などで経験を十分に積んで十数年経過医師が、「自分のやりたい医療をやってみたい」「自分の実力を試してみたい」といった理由で意を決して自らが院長となり開業するという流れがほとんどでした。しかし、美容皮膚科はどうしてもエステサロンの延長として商業的な要素も入り込みやすい要素を持っていますので、他業種の経営者が多く参入して院長の肩書を名乗ってくれる医師を求人サイトで公募して開業して店舗数を増やしていくという流れが強まったのです。
そのように求人サイトで見つけ出した「院長」は美容医療は未経験であるばかりでなく、皮膚科や形成外科の経験もなく、顔や皮膚の診察をしたこともほとんどないというケースも多いのが実情です。ホームページ上に院長に関する記載が一切ないようなクリニックはまさにこのパターンである可能性が高く、「アルバイト感覚の院長」を置いたクリニックということになります。
このようなクリニックでは実際に治療を行うのはほとんどのメニューで看護師が主体となります。乱立した多くのクリニックとの競争も激化した影響もあり、より効果の高いハイフ系マシンも看護師が行う施設が多くなりました。それと同時に全国的な施術件数は急増し、好ましくない変化や重篤な合併症も増加傾向となってしまいました。
全国的に被害の報告が増えたことを受け、真っ先に厚生労働省が規制に乗り出したのはエステ施設で行われている、いわゆる「エステハイフ」です。合併症を引き起こすレベルの出力を発揮できるハイフマシンは医療機器です。その医療機器をエステ業者に無許可で販売する業者も次々と摘発され、事実上エステ施設でのハイフ施術は禁止されました。
当然の対応だと思いますが、当時もエステ施設で火傷や神経損傷などを負ってしまった患者様が定期的にご相談にいらっしゃっておりましたので、もう少し早い対応が望ましいところでした。
しかしエステハイフが禁止されて以降も、全国的に寄せされる被害の報告は減少傾向となりませんでした。この背景は先ほどお話したように、急増している美容クリニックにおいても看護師施術が主流になってしまったということにあると私は思っています。
美容クリニックにはしっかりと経験を積んだ医師が常時勤務している施設もあります。そのような施設において医師による技術指導がしっかりとなされている看護師であれば、デザインセンスという部分は別として実際は問題となることはないと思います。
しかしながら、現状においてはあまり美容医療に対する知識を持っていない医師を院長として据えながら、実際には看護師主体で運営しているクリニックも多くなってしまっています。このような状況が結果的にハイフ施術の被害件数の増加につながっているのだと思います。
そこで今年6月7日に、厚生労働省から「医師以外のハイフ施術を禁止し、違反者は医師法違反」という内容の通達がなされました。
実は「ハイフ施術は医師のみが行うべきだ」という見解は以前から厚生労働省は発信しておりましたので、新しい情報ではありません。しかし、今回このように医療機関向けの通達として、違反した場合には医師法違反という部分も含めて見解を明らかにしたことには大きな意味があります。
やはり増加に歯止めがかからない被害件数の報告に対して、「なんらかの対応をした」ということを示す必要に迫られたという証拠ではないかと思います。
この通達を受けて不適切なハイフ施術は減少し、被害を受ける方も減っていくのでしょうか。残念ながらそのようには進んでいかないと私は考えています。それは「看護師は医師の指示の下でリスクの少ない医療行為を行ってよい」とされているためです。一般の病院で点滴や採血といった医療行為も医師しか行うことができないとなってしまっては医療機関が破綻するためです。ここでポイントとなるのは看護師が許されている医療行為は以下のように分けられているという点です。
医療行為には医師法に準じて医師のみに許されるべき『絶対的医療行為』と看護師も行う事ができる『相対的医療行為』があります。この線引きはその医療行為によってどれだけの重篤な合併症がリスクとして存在するかによります。
ハイフ系マシンはその進化型が登場するにつれ、以前にはなかった合併症も報告されるようになりました。神経損傷や火傷だけでも大変な合併症ですが、急性白内障や動脈損傷に伴う脳梗塞といった重篤な合併症の報告も出るようになっています。 これらの合併症は解剖知識を十分にもち、施術トレーニングを積んだものであれば100%回避できますが、残念ながら後遺症が残る可能性もある重篤な合併症です。それらが報告されている以上は相対的医療行為として認めるには時期尚早だと思います。生じている合併症の内容と件数から言えば、絶対的医療行為として責任の所在を明確にして医師のみに限定すべきだと思っています。
正しい教育を医師から直接受けられず、技術研鑽を日々積むことがてきない環境でハイフの施術を強いられている看護師の方も多く存在するのが現状です。クリニックの急増によってそのような環境に身を置いている看護師の方は増えているのではないでしょうか。そのような施設では何か起こった場合の迅速な対応はできませんし責任の所在も不明確ですので、対応があいまいになりがちです。 ろくに合併症の回避方法やリスクも知らされずに簡単な動画をみせられて照射するように指示され、怖がりながら施術しているという『不安の声』も多くの他院の看護師の方から実際に頂いています。
今回の厚生労働省の通達は一歩踏み込んだことに間違いはありません。しかし、「ハイフ施術は医師が行うべき医療行為」と明言するのにとどめています。絶対的医療行為だと明言は避けておりますので、「じゃ、看護師施術ならOKだ。よかった。」という反応が業界全体の声として聞こえてきています。すでに店舗展開をして看護師施術で多くの売り上げが立っていますので、これが禁止されてしまうと死活問題となる施設も多く存在するためです。
厚生労働省は被害件数増に対して重い腰をあげたわけですが、エステ施設と歯科医院におけるハイフ施術を明確に禁止したことは大きな一歩ではあると思います。しかし、現在のトラブルの主体である『責任をとる管理医師が不在クリニックでのハイフ施術』という本丸に対しては、何も対策が講じられておらず、これまでとなにも変わらない可能性が高いのです。
誤解のないように申し上げますが、看護師施術のすべて悪いとは思っていません。脱毛レーザーのように重篤な合併症リスクの極めて低い領域は、ドクター処置にして単価が上がってしまうよりも、看護師施術として一般化したほうが国民全体としてのメリットの方が断然大きくなる施術もあります。
ハイフ施術に関しても非常に勉強熱心で、解剖学知識もしっかり身につけて日々技術トレーニングに励んでいる看護師さんがいることも知っています。ハイフ施術の講演会などを行った後は、そのような看護師の方から熱心にいろいろな質問のメールも多く頂戴しています。経験の浅い研修医よりもよほど上手だろうと思える人も多くいらっしゃいます。
しかし、このような人は全体からみると少数派ですので、それが全国的な被害件数増加につながっています。業界全体として重篤な合併症は一例も出してはいけませんので、少なくとも安全に施術ができるように学べる場が整備されるまでは、一旦は看護師の施術を禁止するところまで踏み込んでもよかったのではないかと思っています。
看護師は外科手術の介助は許されていますが、執刀医となることは許されていません。これは手術という医療行為が責任の所在を明確にしなければならない重篤な副作用のリスクがある絶対的な医療行為であるからです。とても手先が器用な看護師が「自分が縫った方が研修医より上手だから、自分でメスで切開して私が縫合したいです」といったとしても、いくら毎日毎日熱心に勉強して縫合の練習をしていたとしいても施術者となることは許されません。
実際に報告されているハイフ施術の重篤な合併症は、絶対的医療行為とみなすべき重さのものが出始めています。国民を守るためにはもう少し踏み込んだ規制が現状では必要だったと思います。
今回のハイフ施術に関する騒動は、現状かかえている美容医療業界の急激な発展による『ゆがみ』を反映している象徴的な出来事だと思います。本来は美容医療に携わる医師たちが団結して、美容医療業界が安全性を最優先させる方向性で発展する規制を行うべきなのですが、どうしても業界全体の発展よりも自己の経営・利益を優先されてしまいがちになります。
ハイフ施術に限らず、今後美容医療を受けようと考えているお客様におかれましては、SNS等で見かけた施術名でクリニックを探すのではなく、「誰がやるのか」という部分にも重きをおいておくことがより大切になってきていると感じます。